プロゴルファー 畑岡 奈紗 (NASA HATAOKA)

最後に打つのは自分。畑岡奈紗、悲願のメジャー制覇へ新体制で始動

最後に打つのは自分。畑岡奈紗、悲願のメジャー制覇へ新体制で始動

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PROLOGUE

畑岡奈紗選手は、茨城県笠間市出身のプロゴルファー。2016年に「日本女子オープン」を史上初のアマチュア優勝で制して同年プロに転向し、2017年から米国女子ツアーを主戦場に、米国ツアー通算7勝、国内公式戦4勝を挙げてきた。2026年は「全米女子オープン」で日本勢最高の6位に入るなど、悲願のメジャー制覇に着実に近づいている。そして今年8月、8年間タッグを組んだキャディーとの契約を解消し、新たな体制で再スタートを切った。長年の相棒と別れてまで「自分で決める」道を選んだ理由とは何か。心技体のバランス、道具選びの哲学、単身渡米の原点、そして失格という苦い経験までを語ってもらった。

「新しい一歩を踏み出すタイミング」――8年間の相棒との別れ

畑岡奈紗選手
Q今年8月末、8年間タッグを組んできたキャディーのグレッグ・ジョンストン氏との契約を解消されました。長年の相棒と別れて新しい体制で再スタートを切る、その「始める時」の心境を聞かせてください。

この数年、自分の中でゴルフに対する向き合い方が少しずつ変わってきた感覚があります。プロになってからずっと、結果を出すために何が必要かを考えながらやってきましたし、その時々で一番良いと思える選択をしてきました。長く一緒に戦ってきたグレッグとは、約8年間本当にたくさんの経験を共有してきました。海外の試合では分からないことも多いですし、コースの見方や風の読み方、試合中の流れの作り方など、学ばせてもらったことはとても大きかったです。だからこそ、今回キャディー契約を解消するという決断は簡単なものではありませんでした。ただ、今の自分にとっては、新しい一歩を踏み出すタイミングだったのだと思っています。

これまでは、迷った時に経験のある人の意見を聞くことで安心できる部分がありました。でも、試合を重ねていく中で、自分の中にあるイメージや感覚をもっと大事にしたいという思いが強くなってきました。もちろん、周りのサポートは欠かせませんし、一人で全部を抱え込むということではありません。ただ、最後にショットを打つのは自分ですし、その結果を受け止めるのも自分です。だからこそ、クラブ選択や攻め方についても、最終的には自分で決断したいという気持ちがあります。うまくいかなかった時に誰かのせいにするのではなく、自分で決めたこととして受け止める。その積み重ねが、今の自分には必要なのだと思います。

「最後に打つのは自分」

プレー中の判断については、以前から基本的に自分で決めたいタイプでした。もちろん、風の向きや距離感、ライの状態などで迷うことはあります。その時にキャディーの意見を聞くこともありますし、別の見方をもらうことで整理できる場面もあります。ただ、最終的にそのショットを打つ時には、自分の中で納得していないと振り切れません。少しでも迷いが残ったままだと、体の動きにも出てしまいますし、結果にもつながりにくくなります。だから、どんな状況でも自分で決めたという感覚を持ってプレーすることを大切にしています。

心技体、三つのバランスを守る

Q畑岡さんのスイングは、肩の回転を軸にインサイドから打ち込み、インパクトの瞬間に地面を踏み込むような独特の動きが特徴だと分析されています。ご自身の中でこの“技術”をどう作り上げ、再現性を保っているのでしょうか。

ゴルフは、技術だけで戦えるものではないと年々感じるようになりました。ショットの精度やパッティングの感覚はもちろん大事ですが、それを試合の中で発揮するためには、心と体の状態が整っていないといけません。よく「心技体」と言いますが、どれか一つが突出していればいいというより、三つのバランスが取れていることが一番大事だと思っています。技術が良くても気持ちが焦っていれば判断がぶれますし、気持ちが前向きでも体が疲れていれば思うようなスイングはできません。自分の状態を客観的に見ながら、今どこを整えるべきかを考えるようにしています。

畑岡奈紗選手

フィジカル面では、試合期間中でも週に2回から3回はトレーニングを入れるようにしています。以前は、スイングへの影響を考えて下半身を中心に鍛えることが多かったのですが、今は体全体の連動性を高めることを意識しています。ゴルフのスイングは、下半身だけでも上半身だけでもなく、体幹を含めて全身がうまくつながることが大切です。だから、上半身や体幹のメニューもバランス良く取り入れています。ただ、毎日追い込めばいいわけではありません。疲労が残った状態で試合に入ってしまうと、細かい感覚がずれてしまうこともあります。練習する日、トレーニングする日、休む日をしっかり分けることも、今はすごく大事にしています。

根底には、やっぱりゴルフが好きだという気持ちがあります。小さい頃からずっとゴルフをしてきて、プロになって、海外で戦うようになっても、その気持ちは変わっていません。ただ、好きだからこそ、常にゴルフのことだけを考え続けてしまうと、気持ちが張り詰めてしまうこともあります。オフの日は、なるべく人混みを避けて、静かに過ごすことが多いです。体を休めるだけではなく、頭の中を少し空っぽにする時間も必要だと感じています。試合が続くと、どうしても移動や練習、調整に追われます。その中で自分のペースを保つことが、コンディションを整えることにつながっていると思います。

「気持ちよく振れること」――道具選びの大前提

畑岡奈紗選手
Qここ数年、ユーティリティの本数を増やすなどクラブセッティングを見直されてきました。番手構成や道具を変えるという判断は、どのような基準で行っていますか。

道具選びについても、自分の感覚を大切にしています。コースによって求められるショットは違いますし、風の強さやグリーンの硬さ、ラフの状態によっても必要なクラブは変わります。同じロフト角のウェッジでも、バウンスが違えば抜け方や打ち出しのイメージが変わります。距離が長いコースでは、少しでも高さを出しやすいクラブを入れることもありますし、グリーン周りで繊細なショットが求められるコースでは、ウェッジの選び方を特に慎重に考えます。ただ、どんなセッティングにする時も、一番の基準はターゲットに対して気持ちよく構えられるかどうかです。アドレスした時に違和感があると、自信を持って振れません。気持ちよく振れることは、私にとって道具選びの大前提です。

単身渡米、挑戦の原点

Q2016年末、アマチュアとして日本で結果を残していた中、プロ転向とほぼ同時に単身で米ツアーの予選会に挑み、翌2017年から本格的に主戦場を米ツアーに移されました。言葉も勝手も分からない環境に飛び込んだあの挑戦が、今の自分につながっていると感じることは何ですか。

2016年に日本女子オープンで優勝した時は、アマチュアとしての優勝ということで大きく取り上げていただきました。プロに転向して米国ツアーに挑戦することを決めましたが、アメリカでの活動はそれ以前から見据えていたので自分の中では迷いはあまりありませんでした。東京オリンピックに出たいという大きな目標がありましたし、世界ランキングのポイントを考えても、米国ツアーで戦うことが自分にとって一番良い選択だと思っていました。もちろん、海外で戦うことは簡単ではありません。言葉や環境、移動の距離、コースの難しさなど、日本とは違うことばかりでした。でも、早い段階で世界の舞台に挑戦したからこそ得られた経験は、今の自分の土台になっています。

畑岡奈紗選手

米国で戦っていると、毎週のように違う課題が出てきます。コースによって芝質も違いますし、風の読み方も日本とは違う場面があります。ピンを狙っていくべきなのか、センターに置いてチャンスを待つべきなのか、その判断を一打一打しなければいけません。思い切って攻めることも大事ですが、我慢することも同じくらい大事です。若い頃は、うまくいかない時にどうしても結果を急いでしまうことがありました。でも、今は一つのミスで流れを全部悪くしないこと、次のショットでできることに集中することを意識しています。そういう部分では、少しずつ成長できているのかなと思います。

「寝耳に水」だったショップライトでの失格

Q2年前、ショップライトLPGAクラシックでの失格という出来事がありました。あの経験は、今の畑岡さんにどうつながっていますか。

ショップライトLPGAクラシックで失格になった時のことは、今でも簡単に言葉にできるものではありません。本当に寝耳に水という感覚でしたし、気持ちを立て直すまでには時間がかかりました。もしあの試合で優勝できていれば、パリ五輪につながる可能性も大きかったと思います。だから、悔しさがなかったと言えば嘘になります。ただ、どれだけ悔やんでも終わったことは変えられません。良い思い出ではありませんが、それでも前を向くしかない。あの経験を通して、結果だけではなく、自分がどう受け止めて次に進むかが大事だと改めて感じました。

支えを受け取りながら、自分自身を信じる

畑岡奈紗選手
Q今季は全米女子オープンで日本勢最高の6位につけるなど、悲願のメジャー制覇に着実に近づいている印象です。新体制で迎える来季、技術面・メンタル面でどんな進化を目指していますか。

メンタル面については、以前よりも専門家の力を借りるようになりました。自分一人で考えていると、どうしても同じところで悩んでしまったり、気持ちの整理がつかなくなったりすることがあります。メンタルコーチと話すことで、自分が何に引っかかっているのか、どういう時に判断がぶれやすいのかを言葉にできるようになりました。ゴルフは個人競技と言われますが、決して一人だけで戦っているわけではありません。トレーナー、コーチ、家族、サポートしてくださる方々がいて、その中で自分がプレーに集中できています。今は、とても良いチームが作れていると感じています。

最終的にコースに立った時、頼れるのは自分自身です。でも、その自分を信じるためには、日々の準備や周りの支えが欠かせません。技術を磨くこと、体を整えること、気持ちを整理すること。その一つ一つを積み重ねていくことで、試合の大事な場面でも落ち着いて判断できるようになるのだと思います。メジャー優勝は、ずっと目標にしていることです。簡単に届くものではないからこそ、そこに向かっていく価値があります。これからも結果に一喜一憂しすぎず、自分がやるべきことに集中して、少しずつでも前に進んでいきたいです。

今回の新体制は、自分にとって大きな変化です。長く一緒にやってきた人と離れることには寂しさもありますし、不安が全くないわけではありません。それでも、今の自分がもっと強くなるためには、自分の感覚を信じて、自分で決める場面を増やしていく必要があると感じています。誰かに頼らないということではなく、支えてくれる人たちの力を受け取りながら、最後は自分で責任を持ってプレーするということです。その覚悟を持って、これからの試合に臨みたいと思っています。

ゴルフを続けていると、良い時も悪い時もあります。思うような結果が出ない時期もありますし、自分では良い準備ができたと思っていても、それがスコアにつながらないこともあります。それでも、そこで立ち止まらずに、何が足りなかったのか、次に何をすればいいのかを考えることが大事だと思っています。失敗した経験も、時間が経てば自分を強くしてくれるものになります。今の私は、そういう経験も含めて、自分のゴルフを作っている途中なのだと思います。

「最後は自分を信じて振り切る」

これからも、目の前の一打に集中することを大切にしていきたいです。大きな目標を持つことはもちろん必要ですが、その目標に近づくためにできることは、結局は今やるべき一打、一日一日の準備の積み重ねです。自分の感覚を信じること、支えてくれる人たちを信じること、そして最後は自分自身を信じて振り切ること。その姿勢を忘れずに、メジャー優勝という目標に向かって挑戦を続けていきたいと思います。